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インタビュー

成果を出し続けるために必要なマーケティング思考の身に付け方――グロースX取締役COO山口義宏インタビュー

最終更新日:2026.10.26

The Marketing Native #53

グロースX 取締役 COO

インサイトフォース 取締役

山口 義宏

マーケティングへの注目度上昇と比例して、「自分もマーケティングで成果を出したい」「マーケターとして成長したい」と考える人や、業績向上のためにマーケティングやDXに投資する企業が増えています。

一方で「せっかくマーケティングに投資したのに、なかなか成果が出ない」と、マーケティングへの期待値が下がっているケースもあるようです。

なぜマーケティングに力を入れているのに、成果が出ないのでしょうか。

最新刊『マーケティング思考』が好調なグロースX取締役COOでインサイトフォース取締役の山口義宏さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

必ず押さえるべき強力なフレームワーク

――『マーケティング思考』、発売前から重版がかかり、現在3刷(2023年4月12日現在)とのこと。私もこの本を読んでから「誰に?」「何を?」が口癖になりました。まず本についてお聞きしますが、誰向けに、どんな態度変容を期待して書いたものですか。

大きく2つあります。1つは「マーケティングに強くなりたい」「マーケティングで成果を出したい」と考えている個人のマーケティング人材向け。もう1つは、マーケティング人材の採用や育成をする企業経営者や事業部長クラスの人たちに向けて、チーム編成や成果創出のポイントについて解説しました。

マーケティングが業績を上げる大事なレバーの1つであるとの認識は、P&G出身マーケターの方々のご活躍などによって、日本の企業の経営層で広がっていると思います。また、事業のDX推進やマーケティングの現場では、特にデジタル領域の知識を持つマーケティング人材を採用したい会社が急増しており、そこに関連してマーケティングの教育・人材育成や派遣、転職斡旋ビジネスも拡大傾向にあると感じています。

一方、個人、組織ともに、マーケティングに投資して強化を図っているものの、想定した成果が出ておらず、課題を感じている方もたくさんいらっしゃいます。その背景として、需要の急増に比べて既存の経験者人材では供給が追いつかず、異なる職種から転職したばかりの初心者マーケターも増えており、その人たちをマーケティングのリテラシーの低い会社が採用しつつ育成に苦労されている状況があります。

また、既存の歴史ある中堅~大手企業でも、事業のデジタル化対応は急務で、それを推進する人材が大量に必要ですが、デジタルだけでなくマーケティング視点を強化しないとDXで顧客体験や価値を高めることに至らず、効率化やコスト削減で終わってしまいます。外部からの採用だけでは間に合わず、既存の事業をよく理解している社員にデジタルとマーケティングの知識を学んでもらってさらに活躍してもらうというリスキリングのニーズがあります。

この本はデジタルやマーケティングに投資しているのに顧客体験や業績面で成果が出ていない企業や個人を対象に、成果の出やすい道筋を作りたいと思い執筆したものです。

以前出版した著書『マーケティングの仕事と年収のリアル』は、マーケティング人材個人のキャリアを充実させる視点でした。今回の『マーケティング思考』は企業経営側や事業部長クラスの人たちが、人を採用してマーケティング人材として育成するにあたり、どういうチームを作り、どんなポイントを押さえれば成果が出るようになるか、マネジメント側の視点で多くを執筆しています。

成果を出す第一歩は、「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」という企画と判断の基準を揃えてから、「どのように?(実現の4P施策)」のモノやサービス、施策を作ることです。実際にお金や時間を負担する顧客と、顧客が感じている価値を外した施策は、投資しても驚くほど反応がなく成果も出ません。自分もたくさんそんな失敗をしてきましたが、そういう人やお金のリソース浪費で終わるシーンを減らしたいという思いがあります。

――「ひと言で、この本には何が書いてあるのですか」と聞かれたら、何と答えますか。

実はこの本を作るときに担当編集者の方に同じことを聞かれて、「業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること」と答えました。それがそのまま本のサブタイトルになっています。20年以上のコンサルティングの経験で、おそらく個人としては多様な業種で200社程度の支援をさせていただきましたが、長期的に成長が持続する企業は、表面的なブランドの世界観や施策のやりかたはそれぞれに異なるものの、マーケティング関連の判断軸は驚くほど共通性が高いと感じます。それらの判断軸が組織の隅々まで浸透していることが、業績を良くする仕組みであり、うまくいっている会社では当たり前な暗黙知を、形式知にして本にまとめたつもりです。

『マーケティング思考』で書かなかったことは施策実行の解説です。したがって、顧客理解の分析手法や広告運用の方法、SEOの実行方法などは載っていません。それらの実行方法を習熟することは大切ですが、すでに世の中にある多くの本で解説されていますし、広告運用のような世界は日進月歩で、私が新しく提示できる部分はありません。

世の中のマーケティングの書籍を見渡すと、アカデミックな原理原則論と各種個別の施策の実行方法の解説は充実しているのですが、その2つの間をつなぐ現場の勘所や、「うまく施策をやる」部分の手前にある「業種、事業フェーズ、顧客、ブランドの特性に合わせて適切な施策を選ぶ」「それをアジャイルに施策運用できるチームをつくる」という実際の勘所の解説書籍が少ないと感じていました。

すでにマーケティング業界にいて一定レベル以上の人たちからすると、目新しい内容は書いていないです。うまくいっている企業は、それらを暗黙知的に実践されています。でも、それができている企業としても5%以下というのが肌感覚です。その「すでに知っている有識者」の方々からは「新しいことは書いていないじゃないか」というネガ反応と、「大事なことだけど社内で理解してもらうのが大変な“成果を出すのに重要な暗黙知”をよくぞまとめてくれた」という反応に分かれる印象です。後者のニーズに思い当たる部分がある方なら、有識者の方にもおすすめです。

「誰に?」「何を?」を身に付けたOS人材の強み

――本の中では、4P施策の実行ノウハウに詳しく専門性の高い「App(アプリケーション)人材」と、4P施策にも一定の知見を備えつつ、顧客理解と顧客価値の「誰に?」「何を?」を理解し身に付けた人を「OS(オペレーティングシステム)人材」と呼んでいます。OSとAppは車の両輪であるとしていますが、なぜ各施策に専門性の高いApp人材は多くても、OS人材は少ないのでしょうか。

一般論として、マーケティング支援会社や広告代理店の立場からすると、顧客理解と顧客価値の整理で対価としてお金を得やすいか?という視点で難しさがあります。要するに、顧客理解と顧客価値の整理はアナログな暗黙知の集大成なので、「自社が提案先企業よりもうまくやれる」ことの事前の証明が難しいし、職人芸なので、それが売り物では事業がスケールしにくく、ビジネスモデルとして注力しづらい構造があります。

しかし、これが広告費ならどうでしょうか。数百万円、場合によっては数千万円のお金を毎月のように支払っている事業会社はたくさんあります。つまり、「顧客理解や顧客価値の棚卸しと整理でマーケティング施策の成果に大きな差がつく」という認識が企業側に薄い、もしくは重要度は高いけど、それが弱くてもひとまず広告はつくれてしまうため、典型的な「重要度は高いけど、緊急性が低く見えるテーマ」になっていて、事業会社側はお金・時間・意識を配分する習慣がないことに尽きます。

もう1つはAppのほうが世の中で情報量が多く、再現性が高そうに見え、学習しやすいことが挙げられます。私はOSとAppのどちらが大事と言うつもりはなく、両方大事なのですが、どうしてもAppのほうが学びやすく、すぐに一定の成果も出やすいため、学習投資としてはAppのほうに比重が偏りがちです。だからこそOSの重要性を啓蒙したいと考えました。

顧客理解の精度を上げる3つの要素

一方、顧客理解は形式知の学習と成果が比例しにくいのも時間を使いづらい理由の深層だと思います。

顧客理解の精度を上げるためには3つの要素があり、それらの掛け算で理解の深さが出てきて、施策の選択やつくりかたを変え、施策の成果を底上げします。1つめは、顧客理解のフレームワークや調査分析・手法の知識で、これらは書籍などで形式知として学びやすい部分です。

2つめは行動、顧客情報の入力量の話で、フレームワークや知識をいくら知っていても、実際に一定量以上の顧客データや生声に触れてみなければ、顧客理解の解像度は低いままです。オンラインのビデオミーティングでもいいから顧客と対面で直接ヒアリングをするなど、定性的な要素に触れることが大事です。顧客に1人も会ったことがないけどフレームワークに詳しい人より、フレームワークには詳しくないけど、30人の顧客に会って話を聞いた人のほうが顧客理解は深くて正しいと思います。

3つめは少し難しい。2つめまでは努力次第で何とか達成できそうですが、3つめは自分とは異なる世界、価値観を理解し、受け入れられる経験の深さ、豊富さで、長年の人生経験の蓄積が効く部分であり、意識したからといって明日改善できる部分は少ないでしょう。

人が人を理解するとき、その人をそのまま深く理解することは難しくて、多くの場合、過去の人との交流経験との参照で、推察を交えて理解するわけです。1の発言や行動から10を理解するのは、まさに過去の経験則を総動員した推察です。

その際、自分と価値観やライフスタイル、収入レベル、居住地域が異なる距離の遠いコミュニティの人との接触量が少ないと、話を聞いたところで理解が及ばないことが少なくありません。それは一朝一夕ではなく、意識して広げないと身に付きにくいので、一番難度が高いと思います。

――では、若い人は厳しいですね。

いや、必ずしも年齢と比例はしません。若くても幅広い経験をしている人はいますし、逆に年齢を重ねていても狭い1つのコミュニティだけで生きてきた人は顧客理解をする力が弱いと思います。

マーケティングの従事者でも、自分と異なる価値観に接したときに、自分の価値観や生活との距離の遠さから「あり得ない」と拒絶反応で思考を遮断しがちな人も時に出てきます。それは顧客理解においては良くない態度で、自分と異なる価値観や生活をしている人々にも、当然ながらそれぞれの正義とポジティブな感情があるわけですから、相手の環境や人となりに好奇心を持つことが大切ですし、その人たちとの交流経験があれば、理解の速度も深さもだいぶ違います。

その点に関連して申し上げると、私の周りにそんなに複数いるわけではないですが、グロースX取締役の西井敏恭さんのように世界一周旅行を経験した人は、やはり視野が広がっていて、マーケティング人材としても優秀な方が多い気がします。自分からすると、距離の遠い価値観と生活の人々をたくさん見たことで、ちょっとやそっとのことでは遮断せずに、違いに興味を持てる人が多い印象があります。

図解出典:グロースX / インサイトフォース

生産性向上のカギを握るマーケティングの重要性

――なるほど。とはいえ、なかなか世界一周するわけにもいかないですから、それでも「自分はOS人材になりたい」、あるいは「自分のチームにOS人材を増やしたい」と考えたとき、どんな方法がありますか。

まず、「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」「どのように?(4P施策)」の中でも施策の知識はアップデートされて変わり続けるので、常にキャッチアップのための学習は必要です。チームの場合は、必要なタイミングで誰かが勉強するなり、詳しい人を引き入れたり、外注したりしながら永遠に学習しなければいけない部分があります。ただ、自分が実行の担当者でない場合は、施策の概要までの理解でも十分と思う部分はあります。理想はすべて細部まで知ったほうが良いのでしょうけど、時間は限られていますし、デジタル化によって施策の手法は無限に増え続けており、すべてを細かく理解できると思うのは幻想です。

その前提を踏まえた上で、私が強くお勧めするのは顧客インタビューの頻度と経験を圧倒的に増やすことです。私は20代のときに勤務していたコンサルティング会社で、定量面では日本人の価値観・ライフスタイルに関する大量の調査データベースの分析に接し、定性面ではグループインタビューの調査にたくさん同席をしました。若いうちに「自分と価値観の異なる人たちが世の中にはこんなに大勢いる」という現実に繰り返し直面し、「イノベーターと呼ばれる2.5%のライフスタイルはこんなもの」という定量的な把握の蓄積が、今になって私自身の思考や顧客理解の柔軟性を支える財産になっています。ちなみにマーケターが企画書で描くイノベーターは、その大半は2.5%の生活ではなく、上位0.2%レベルの生活レベルで一桁違うことがよくあります。東京に住んでいると基準が上ぶれしがちです。

顧客インタビューのコツは実践回数を重ねるにつれて身に付いてきます。確かにノウハウもありますし、巧拙の差が出てしまうこともありますが、「顧客インタビューには高い技術が必要で、調査会社やインタビューの専門家が行うもの」という固定観念にひるむのではなく、最初はうまくなくても、回を重ねつつ改善すれば次第にうまくなります。うまくなってからやろうではなく、「すぐやって場数を踏めばうまくなる」の姿勢で臨むのが良いと思います。

――わかりました。ここで少し話を変えて、山口さんがグロースXの取締役に就任した背景を教えてください。グロースXのバリューを通して社会にどんな貢献をしていきたいと考えていますか。

グロースXの価値は、いくつか立場によって貢献できるものが異なります。企業には、マーケティング力強化を通じた売上・収益の向上への貢献、そして社内人材のデジタルとマーケティング領域のスキルアップという人材育成の貢献があります。同時に、それらを社内で学習して成果を出す社員の方々の視点に立つと、「デジタル時代のマーケティングを学び、成長し、成果を出す経験」は、大げさに言えば人としての自信や自己肯定感を高めるという貢献があり、これはグロースXのミッションにもなっています。

前者のマーケティング強化による業績向上支援は、私自身の長年の仕事のライフワークで過去の延長線上にあるものです。後者の個人の自己肯定感という部分は、まさに自分の人生がマーケティングを学び、成果を出すことで、キャリアが切り拓かれ自己肯定感が高まったという人生の基盤がマーケティングでつくられたような実感があり、それは自分がグロースXを通じて「あの頃の自分みたいな人」を手伝いたいというパッションにもなっています。

さらに言えば、マーケティングの知識が活きるのはマーケティング業務だけではありません。人生はプライベートでも「誰かに、何かの価値を感じてもらう」ことによって、自分という人間に時間を割いてもらい、交流が生まれ豊かな人生になります。つまり、大げさに言えば、全員がマーケティング職である必要はないけど、実は生きている以上は、マーケティング的思考とは無縁ではいられないし、そのメカニズムを知って使いこなせたほうが豊かに生きられるのでは?みたいな思いもあります。

社会という視点に戻すと、日本の会社に圧倒的に足りないことの1つが生産性で、それによって個人の年収が上がらず、現在のようなインフレ局面では生活が圧迫されます。つまり、デジタルとマーケティングの活用によって、企業の生産性を高め、個人の給与を高めることは、シンプルな社会貢献になると思っています。

その生産性のボトルネックを突破するためには、マーケティングとデジタルを統合して成果を出す方法論を企業にうまく浸透させる必要があります。その実現には、コンサルティング会社に依頼する方法が1つと、もう1つは自社の社員がマーケティングとデジタルの知見を得て、隅々まで使いこなせるようにする方法がありますが、明らかに後者も併用したほうが成果のインパクトは出ます。マーケティングとデジタルを使いこなせる人材の育成を、アプリとカスタマーサクセス支援を通じて多くの企業に提供すれば、社会にインパクトを出せるという点でグロースXは面白い会社です。

マーケティング人材への期待度の高さと現実

――山口さんはマーケティング畑23年とのこと。今はマーケティング人材の人材派遣や転職を扱うビジネスが拡大していますが、やはり山口さんご自身もマーケティングへの注目度は昔と比べて上がっていると感じますか。

マーケティングへの注目度は非常に上がっていると思います。1つには、先ほど申し上げたようにP&G出身の方々のご活躍でマーケティングによって業績が向上した事例が見える化したことが挙げられます。ただし、経営のレイヤーで企業に入って、大きな業績インパクトを出せる人材は限られますから、その需給はタイトです。

一方、現場レベルでは、マーケティングのデジタル化に慣れていない会社が依然多く、デジタルマーケティングに詳しい人材を採用したり、支援会社に依頼したりしている現状があり、それらの旺盛な需要が人材派遣や紹介ビジネスの増加に表れています。

その流れは今後も進んでいくと思いますが、その分、これも先ほど申し上げたように、初心者や経験値が低く質の伴わない人も増えてしまいます。現在は現場で摩擦が起き始めていて、「マーケティングを強化したのに、なかなか成果が上がらない」と期待値が低下している状況が一部で生じていると考えています。

――確かに今、スキルの高いマーケティング人材が引っ張りだこになっていると感じます。マーケティング人材への高い需要は今後も続くと思いますか。

マクロではDXもマーケティングも、投資は減少しないのではないでしょうか。ただ、それを担える人材を採用でまかなうのか、自社の社員の育成で担えるようにするのかの比率はまだわかりません。個人的には前者の採用需要も増えつつ、今後は後者の需要がよりハイペースで増えていくと見ています。

採用市場においては、過去にエンジニアの単価が上がっていった状況と同様のことが後追いでマーケティング人材に起きていると理解しています。とはいえ、エンジニアは成果物がわかりやすいのに対し、マーケティング人材は穿った見方をすると、何をしているかわからないのに給料が高く、怪しいと社内で受け取られているケースがあります。

――なるほど、マーケティング人材への注目度が上がる一方で、企業側はうまく成果が出ないことで期待値は下がっている場合もある、と。

そうですね。実際に限られた期間で売り上げと収益にインパクトのある成果を出すのは大変なことで、すべてがうまくいくわけではなく、そういった摩擦は起きがちです。マーケティングはチームの団体戦競技なので、メンバーの平均レベルを上げないと、どれだけ責任者の腕が良くても、施策の隅々までそのディレクションは反映できないですし、デジタル化した時代では施策の数も多く、ひとりの凄腕が全部の施策の細部まで管理することは不可能です。そのため、メンバーの平均レベルを高めるためにグロースXを導入いただく場合も多くあります。アプリとカスタマーサクセス支援によって、多くの人数を同時に大量育成する仕組みは、グロースXの独自性ある価値だと考えています。今年2月末時点で導入企業が400社を超え、累計で1万3000人以上の方が受講されていらっしゃいます。設立3年未満の時点(現在3期目)でその数字は、クライアントとして関われる数が限定されるコンサルティングではとても出せない影響範囲のインパクトだと思います。これはグロースXに関わったからこそできることです。

成果が出ないときこそ顧客理解と顧客価値の棚卸しを

――わかりました。最後に、山口さんが考える優れたマーケティング人材の特徴について教えてください。1つはOSとAppの両方に秀でて兼ね備えていることだと思いますが、ほかにありますか。

事業は1つの施策やスキルの一本足では勝てないので、成果を出すためには、複数のパズルを組み合わせるのが必要になります。私もそうですが、すべてにおいて優れた人はなかなかいません。これまでもそれぞれの分野において素晴らしい切れ味のある方と出会い、影響を受けてきました。そういう意味では、成果を出すのに足りないミッシングピースが何かを理解して埋めにいけることが1つの条件だと思います。

何かが欠けていると認識したときに、自分で埋められるだけでなく、すぐに埋められないと認識できたならチームメンバーや外注先に依頼して埋めるなど、柔軟な解決方法を模索できると、成果の安定性につながります。最初の2~3年は愚直に自分の担当領域の施策を深掘って極めるのも大切ですが、一定以上の年数が経った後は、俯瞰して次に必要なミッシングピースを特定し、それを柔軟に学んだり調達したりする目線の重要性が上がっていきます。

――全体像を俯瞰した上で、伸ばすべきところ、補うべきところを見極めて適切なパフォーマンスを発揮できる人が強い、と。

そういう人は打率が高いと思います。ただ、俯瞰した視点が成果に役に立つのは、『「事業フェーズ別の判断基準」の基本原則』(下記の表参照)で見た場合、「10→100」の事業成長の後期(フェーズ3)や事業の成熟期/再生期(フェーズ4)が中心になります。「0→1」の事業立ち上げ期(フェーズ1)や「1→10」の事業成長の前期(フェーズ2)では、むしろ目の前のことを愚直にやりきる情熱や行動量のほうがはるかに重要です。このフェーズで俯瞰した目線ばかり語っていても、現場では役に立ちません。逆に、フェーズ3の事業成長の後期や事業の成熟期では、がむしゃらにやるだけでは行き詰まりやすく、何をするのか、やめるのかという施策の取捨選択や着手の順番の判断精度が成果に大きく影響します。

図解出典:グロースX / インサイトフォース

同じマーケティングであっても、俯瞰判断と現場判断では必要な情報は違いますし、同時に事業フェーズにおいてもすべきことは大きく違ってきます。具体的に言えば、事業フェーズ0→1の事業立ち上げ期では、顧客ニーズの察知がうまく、プロダクト改善までが迅速なことが大切なので、強い権限を持った明確なリーダーが少人数のチームでないと機能しません。フェーズ2からは顧客獲得コストとLTVをバランスさせながら伸ばしていくPDCAサイクルがないと、利益の伴った成長ができなくなります。フェーズ3からは投資リソースが増えるだけに、施策の選択肢も広がり、意思決定と投資の評価を精緻にやってひねり出せる利益額が大きくなっていくため、いわゆる勘とノリがいいタイプではリソースの浪費が増えていってしまい、より統計的な判断論拠を持ったチームの成功率が上がっていきます。フェーズ4は再生期なので、事業やブランド、施策でROIが悪いものはやめるという、総論賛成・各論反対な判断が増え、部下から嫌われたくない人ではうまくいかないし、ファイナンス目線が強い人のほうが大きな意思決定をしやすくなります。

――この『「事業フェーズ別の判断基準」の基本原則』は本にも載っていて、ハイライトの1つになっています。例えば、フェーズ1の創業期に入社した人が、会社が成長してフェーズ3や4の時代になっても活躍することは可能ですか。

それはYesでありNoです。個人も変化対応がとても大切で、「0→1」のときと同じやり方ではフェーズ2での活躍の幅は小さくなるでしょう。フェーズ2、フェーズ3と会社が成長するにつれて、個人も適応していくことが大切です。「フェーズが変わったから、求められるものが違う」と認識して、新たな学習を始めるなど自ら変化していければ、活躍できる確率は上がると思います。ただ、気質的なものや、能力特性としての相性は確実にあるので、頑張っても苦手でうまくいかないと思ったら、個人のキャリアとしては同じ得意なフェーズの仕事をし続けるという判断はあって良いと思います。

――ありがとうございます。最後にあらためて、本のPRをお願いします。

安定して成果を出せるマーケティングチームを作るのは難しいことだと思います。その困難なテーマに向き合っている方、向き合いたい方にとってヒントになることをたくさん書いたつもりです。

本を読んだら、顧客理解と顧客価値の棚卸しをし、棚卸しされたものに対して、今打っている施策が適切かどうかを逐次検討していくと改善が進むと思います。例えば、バナーで行き詰まったり、SEOで成果が出ていなかったりするときに、バナーの作り方やSEOの方法を考えるのではなく、顧客理解と顧客価値にさかのぼって、そこから再構築したほうが、急がば回れで早く成果が出ることがあります。

こうやって本を書いてインタビューを受けていると、さも自分は完璧にできていそう感が漂うのが困りもの(苦笑)で、実際は私も日々苦労して悪戦苦闘しています。でも、自分自身でも成果で行き詰まる度に、この書籍に書いた基本に立ち戻って「あぁ、著者なのに、自分で書いてある落とし穴にはまってた」と日々反省しているのが実態です。でも、これは自分だけでなく、マーケティング経験が豊富な読者の多くの方々にも感想を伺うと同じなんですよ(笑)。手前味噌ですが、読者の方々が、過去の自分のマーケティングの成功体験と失敗体験を振り返り、成功の再現性を高める視界が得られる本だと思います。ぜひ読んでみてください。

――本日はありがとうございました。

Profile
山口 義宏(やまぐち・よしひろ)
株式会社グロースX 取締役 COO/インサイトフォース株式会社 取締役。
ソニー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部(当時)上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームとしてインサイトフォースを創業(現・取締役)。2022年6月よりマーケティング人材育成サービスを提供するグロースXの取締役COOに就任、インサイトフォース取締役と兼務で担う。著書は『マーケティング思考』(翔泳社)、『マーケティングの仕事と年収のリアル』(ダイヤモンド社)など。

Twitter:@blogucci

グロースX
https://grtx.jp/

 

 

 

 

 

 

 

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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